長崎県の北西部に位置する平戸は、かつて貿易の中心として繁栄した港町でした。

1550年に当時の領主であった松浦隆信が南蛮貿易を始め、平戸港にポルトガルの貿易船が入港。また、宣教師フランシスコ・ザビエルが薩摩半島を経て平戸へと移り住み、貿易とキリスト教は、この地でともに発展・定着していくことになります。当時のキリスト教徒は、ポルトガル語の発音からキリシタンと呼ばれていました。その後、豊臣秀吉によるバテレン追放令に始まり、多くのキリシタンが迫害を受ける中、平戸にいた信徒たちは密かに信仰を続けます。土着の行事と融合した独自の祈りの形を築き上げていき、1873年に禁教令が解かれるまで、300年近く「潜伏キリシタン」として信仰を守ったのです。禁教令の撤廃からさらに150年近く経ち2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産に登録されました。平戸からは「平戸の聖地と集落」として春日集落、安満岳、中江ノ島が構成遺産となっています。その間にも戦時下の日本で敵国の宗教とみなされるなど、日本におけるキリスト教の歴史には、紆余曲折がありました。教会、そして貿易港の名残を伝える史跡が織りなす平戸の景観は、現代を生きる私たちに信仰の歴史を静かに伝えているかのようです。